コートの裾が、朝の風にそっと揺れる。
まだ人の少ない通りを歩きながら、その動きを横目で追いかける。
一歩踏み出すたび、裾はわずかに弧を描く。
まるで地面の上に、見えない線を引いているみたいだ。
アスファルトの黒。
白線のかすれ。
その上を、布の影が静かに滑っていく。
信号が青に変わる。
歩き出す人波の中で、僕のコートは少しだけ遅れて揺れる。
その一瞬のズレが、なぜか心地いい。
ショーウィンドウに映る自分を見る。
裾が風を受けて、ゆっくりと翻る。
歩くたびに、今日という一日を縫い合わせていくようだ。
裾は前を向いているわけじゃない。
でも、確かに僕の進む方向を知っている。
背中側から、静かに道を描いてくれる。
目的地は特別じゃない。
ただのカフェ、ただの駅、ただの街角。
それでも、裾が揺れるだけで、
歩く道が少しだけ物語になる。
今日もまた、布が描いた線の上を、
僕は何気ない顔をして進んでいく。
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