玄関の鏡の前で、帽子をかぶる。
ほんの少し角度を変えるだけで、表情が変わる。
外へ出ると、冬の低い陽射し。
つばの先から、細い影が頬に落ちる。
歩き出すと、その影も一緒に揺れる。
アスファルトの上に、もうひとつの自分がついてくる。
ショーウィンドウに映る横顔。
帽子の輪郭が、街の光をやわらかく切り取る。
強すぎる視線も、少しだけ和らぐ気がする。
風が吹く。
つばを押さえる指先に、午後の空気が触れる。
その一瞬の仕草さえ、今日の装いの一部になる。
帽子は主張しない。
けれど、影をつくることで、静かに存在を示す。
信号待ちで立ち止まる。
足元に落ちた丸い影が、ゆっくりと伸びていく。
時間が流れていることを、影が教えてくれる。
夜が近づくと、影は薄れていく。
それでも、頭上の安心感だけは残る。
帽子の影とともに歩いた今日。
その静かな輪郭が、僕の一日をそっと縁取っていた。
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